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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)3731号 判決 1989年5月12日

原告

平尾正一

被告

大沢正浩

ほか一名

主文

一  被告大沢正浩は、原告に対し、九七万八一三一円及びこれに対する昭和六二年四月二日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告安田火災海上保険株式会社は、原告に対し、七五万円及びこれに対する昭和六二年三月三一日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は一項及び二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告大沢正浩(以下「被告大沢」という。)は、原告に対し、一二三四万九一一四円及びこれに対する昭和六二年四月二日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告安田火災海上株式会社(以下「被告会社」という。)は、原告に対し、二一七万円及びこれに対する昭和六二年三月三一日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  被告大沢について

1  交通事故の発生

被告大沢は、昭和六〇年六月七日、神奈川県横浜市西区高島二丁目一八番先国道一号線上を、自動二輪車(1練馬す8575、以下「加害車」という。)を運転して走行中、同所を東京方面へ向かつて進行していた原告運転の自転車(以下「被害車」という。)に、後続の加害車が前方不注視の結果、被害車に接触した(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

被告大沢は、加害車の所有者であり、自己のために加害車を運行の用に供するものであるから、自賠法三条にもとづき、本件事故により原告が受けた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

原告は、本件事故により、昭和六〇年六月八日から昭和六一年一二月一九日までの間に実日数一八四日間の通院加療を要する頭部打撲、頚椎捻挫、右肘挫傷、擦過傷、右季肋部挫傷の傷害を受けた。

4  損害額

(一) 治療費 三〇万一五七七円(眼鏡代金を含む。)

(二) 通院交通費 八万八一五〇円

(三) 診断書作成費用 四万四七〇〇円

(四) 休業損害 五二〇万七三三三円

原告は、鳶職に従事する者で、平均賃金は一日一万五〇〇〇円であり、本件事故前三か月の原告の就労日数は七三日であるところ、本件事故のため昭和六〇年六月七日から昭和六一年八月八日まで四二八日間仕事に従事することができなかつたので、原告の休業損害は五二〇万七三三三円(一万五〇〇〇円×四二八日×七三日/九〇日=五二〇万七三三三円)となる。

(五) 傷害慰謝料 一四〇万円

(六) 後遺障害にもとづく逸失利益 五一六万三九七八円

原告は、右肘挫傷のため右肘関節の屈曲は一〇〇度、伸展はマイナス一〇度に制限され(正常可動範囲は〇度ないし五度)、右症状は昭和六一年八月八日に固定し、後遺障害等級一二級六号に準ずる。原告は、頚椎捻挫のため頭痛、頚部痛、眩暈、左手シビレ、眼痛、流涙等の症状を呈していて、右症状は昭和六一年八月八日に固定し、後遺障害等級は一四級一〇号に該当する。原告は、頭部打撲のため左耳に混合難聴を来し、その平均純音聴力喪失値は二五・八デシベルとなり、右症状は昭和六一年一二月一九日に固定し、後遺障害等級は一四級三号に該当する。

よつて、原告の逸失利益は、原告の年収四四四万〇八三三円(一万五〇〇〇円×三六五日×七三日/九〇日=四四四万〇八三三円)に、労働能力喪失率一四パーセント、就労可能年数一一年、中間利息をライプニツツ方式、係数八・三〇六で控除すると五一六万三九七八円となる。

(七) 後遺障害慰謝料 二三〇万円

(八) 弁護士費用 一〇〇万円

5  填補

原告は、被告大沢から一〇万〇五七〇円、自賠責から一〇九万九四三〇円、労災保険から一一〇万四四三六円の支払いを受けた。

6  よつて、原告は、被告大沢に対して、一二三四万一一四円の支払いと、これに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和六二年四月二日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告会社について

1  原告の障害は、前記のとおり後遺障害等級一二級に該当する。

2  被告大沢は、昭和六〇年六月七日、被告会社と、加害車について、自動車損害賠償責任保険契約を締結した。

3  自動車損害賠償責任保険における後遺障害等級一二級に対する保険金額は二一七万円である。

4  よつて、原告は、被告会社に対し、二一七万円の支払いと、これに対する本件訴状の送達の日の翌日である昭和六二年三月三一日から支払い済みに至るまで同様年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求原因に対する認否

一  被告大沢

1  請求原因一の1項については、認める。

2  同一の2項については、被告大沢が加害車を所有していること、運行供用者であることは認める。

3  同一の3項については、知らない。

4  同一の4項については、知らない。

5  同一の5項については、認める。

6  同一の6項については、争う。

二  被告会社

1  請求原因二の1項については、否認する。

2  同二の2項については、認める。

3  同二の3項については、認める。

4  同二の4項については、認める。

第四過失相殺

本件事故現場は、交通頻繁な幹線道路であり、一見して自転車走行にはかなりの危険が予測できる場所であるから、迂回するか、または、絶えず横や後続車両等の動静を注意して走行すべきであるのに、原告は、多少ふらつき気味で、漫然と本件事故現場を走行した落ち度があるから、過失相殺すべきである。

第五証拠

本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。

理由

一  原告は、本件事故により、昭和六〇年六月八日から昭和六一年一二月一九日までの間に実日数一八四日間の通院加療を要する頭部打撲、頚椎捻挫、右肘挫傷、擦過傷、右季肋部挫傷の傷害を受け、後遺障害等級一二級六号に準ずる右肘関節の屈曲伸展制限、同一四級一〇号に該当する頭頚部痛、眩暈、左手シビレ、眼痛、流涙、同一四級三号に該当する左耳の混合難聴の後遺障害が残り、労働能力を一四パーセント喪失しているなどと主張し、被告らは、これを争う。

成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証、第二号証、第六号証、第一五号証、甲第三一号証、原告(一、二回)・被告大沢各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、本件事故後、事故処理のために赴いた交番において、警察官から傷の手当を受けた後、警察官の勧めもあつて、本件事故については、被告大沢と話し合つて決めることとし、駅ビルの喫茶店で話し合いをなし、被告大沢が病院の診断書を要求したことから、翌日、同人と鶴見の駅で待ち合わせて、一緒に病院へ行くことにした。

なお、本件事故は、当初、警察では、物件事故の扱いとなつていたが、その後人身事故の扱いとなつた。

2  原告は、翌日、待ち合わせ場所に赴いたが、被告大沢が来なかつたので、一人で自宅近くの汐田病院に行つたものの、同病院では「こぶぐらいなら大丈夫だ」と検査してくれなかつたため、原告は、精密検査を求めて、昭和六〇年六月一〇日、横浜市立大学医学部病院に行き、同病院で検査を受けた。

なお、汐田病院の医師斎藤弘作成の診断書によれば、原告の病名及び態様は「右側胸部、右大腿部挫傷、右肘擦過傷、保存的療法」というものである。

3  横浜市立大学医学部病院での、昭和六〇年六月一〇日初診当時の原告の傷病名は「右肘挫傷、擦過傷、右季肋部挫傷、頚椎捻挫、右腸骨部挫傷」というものであつたが、同病院の医師藤井英世作成の診断書によれば「約三週間の通院加療を要する見込みである」というものであつた。

4  原告は、昭和六〇年六月一三日、被告大沢と示談につき話し合い、「被告大沢は、慰謝料その他諸費用として合計七万五〇〇〇円を昭和六〇年六月一七日までに原告に支払うものとする。自転車の修理代、病院の治療費は被告大沢の負担とすること」という内容で示談書を作成した。

5  横浜市立大学医学部病院での、原告の症状の、その後の経過は、原告が頚部痛を訴えるようになり、昭和六〇年六月一四日ころには、他覚症状として、「頚椎運動に軽度の伸展(後屈)制限があり、神経根緊張徴候なし、上腕二頭筋、三頭筋腱反射正常、上肢知覚障害なし」というもので、自覚症状として、「頚部痛(頚椎の後屈運動で増強)、左手指のシビレ感、右季肋部痛、右肘痛」というものであり、その後の同年七月二四日ころには頚部痛は軽減し、三か月経過の時点で残存した症状は、頚椎捻挫に起因すると考えられる頚部痛であつたが「他覚的所見の変化として、頚椎運動制限は軽減し、受傷後三か月の時点で消失、腱反射、知覚障害など神経学的所見は受傷後三か月の時点でも正常」、「自覚症状として、頚部痛は一時やや軽減したが消失せず、手指のシビレ感も持続した」というものであつて、原告の頚椎捻挫については、明確な他覚的・神経学的所見はなく、原告の頚椎捻挫の程度は、頚椎運動制限が軽度であつたこと、疼痛が比較的軽度であつたことなどから軽症から中程度であつたと思われるとされている。

6  横浜市立大学医学部病院整形外科では、昭和六〇年八月一九日に、原告に対し頚腕運動の指示をしており、本件事故後約三か月後の同年九月九日には、「薬服用しても変化なし」、「次回後遺症診断、打ち切りへ」との判断がなされた。また、同病院脳神経外科でも「六月一四日軽快傾向にあるとの事で終了にしましたが、九月二日左手第五指のシビレと後頚部痛、流涙とのことで再来、神経学的にははつきりした所見なく、念のためCTスキヤンを行いましたが正常でした。現在の自覚症状については、頚椎捻挫によるものと思われます。貴科で、運動するしかない、と説明されているそうですが、患者自身はかなり不満をもつているようです。なお、当科としてはフオロウアツプは不要と考えております」とされている。

以上の事実が認められる。

二  以上の事実から認められる原告の頚椎捻挫の症状の内容、程度、治療経過を考えるならば、原告の症状は、本件事故後、一か月を経た昭和六〇年七月二四日ころから急性期を過ぎ、亜急性期に入つて症状が落ち着き始め、八月一九日の頚腕運動の指示など、頚椎捻挫の一般通常の予後経過を経ているものと判断しえる。

成立に争いのない乙第七号証ないし第九号証によると、一般的に言えば、頚椎捻挫の本体は、頚部の筋肉、靱帯、関節包などの軟部組織の損傷であつて、損傷部分の組織は長くとも一か月で丈夫に連結されるが、瘢痕組織はまだ固く、柔軟性にかける急性期を経て、やがて二か月ほどすると、固い瘢痕組織も周囲と同様の柔軟性を取り戻し、治癒することが一般的で、頚椎捻挫の受傷者の九割前後が三か月以内で治癒ないし軽快していることが認められる。

従つて、特段の事情がないかぎり、原告も三か月以内で治癒したとするのが相当であるところ、前記認定のような警察での処置、示談書の内容、原告の症状の内容、程度、治療経過を考えれば原告には特段の事情が認められないので、原告の本件事故による頚椎捻挫は一般通常のものと同様に本件事故後三か月程度の期間で治癒ないし固定したものと考えるのが相当である。

三  もつとも、原告は、本件事故後三か月を経過した後も横浜市立大学医学部病院、碧水脳神経外科クリニツク、村上整形外科、昭和大学藤が丘病院、関東労災病院で治療を受けているのであるが、この治療の遷延は、乙第六号証、第一五号証によれば、原告が胸部痛、腰痛を訴えたこと、「原告から頚椎捻挫に起因する可能性のある、めまい、耳鳴り等の訴えがあり、眼科、耳鼻科への併診に時間を要したことと、右肘痛、右季肋部痛などが一進一退であつたため」であることなどによるのであるが、このことは、次の事実からして本件事故以外の原因によるものであると考えられる。

1  治療が遷延した原因の一つである胸部痛、腰痛につき、成立に争いのない甲第一三号証、第一四号証、乙第一二号証、第一四号証、原告本人尋問(一回)の結果、弁論の全趣旨によれば、原告には陳旧性第一〇、第一一胸椎圧迫骨折、第二、第三腰椎横突起骨折が見られるのであるが、これは、原告が本件事故以前に、鳶職として仕事中の事故により傷害を負つたことによるもので、すなわち、原告は、本件事故以前の昭和三七年に労災事故により第一一胸椎圧迫骨折、第二、三腰椎横突起骨折の傷害を負い、昭和三九年に労災事故により第一二胸椎圧迫骨折の傷害を負い、昭和五九年六月三〇日に高速道路の橋桁取り付け工事に従事していた際、足を滑らせてよろけ、手摺に背腰部を打つて負傷し、昭和六〇年一二月二六日横浜南労働基準監督署から労災障害等級一二級の認定を受けている。また、昭和大学藤が丘病院整形外科の紹介状では「右第九、一〇肋骨付近に圧痛軽度、又腰部運動痛あります。CTも希望しましたのでとりましたが正常でした。コルセツト長期間装着による腰痛もあると思われリハビリテーシヨン等の必要性もあると思います」、「当科では、症状に交通事故との関連性はないと話しました」とされている。

右のことからすれば、腰痛、胸部痛は本件事故以外の原因によると考えられ、本件事故との因果関係は明確ではない。なお、右肘挫傷については、前記のとおり三か月程度の期間で症状固定したものとするのが相当である。

2  治療が遷延した原因の一つである眼科の併診につき、原告は、本件事故により眼科的症状も発生した旨主張するが、乙第六号証、第一五号証によれば、原告は「両目涙が出やすい、室の内では目がかすむ」などと訴えていて、原告の傷病名は「調節衰弱、眼精疲労」であつて、他覚的には、「調節近点の延長」、自覚的には「霧視」というもので、治療中症状は変らず、初診時から改善は見られないというもので、「頚椎捻挫がこれらに影響していることは想像できます」とされてはいるが、想像できる範囲にすぎないうえ、遠視性乱視がかなり影響を与えているものと考えますとされていて、本件事故との因果関係は明確ではない。

なお、横浜市立大学医学部病院眼科においては、原告が通常の仕事をするのは可能と判断しているうえ、眼鏡の処方をしていることからすれば、原告の訴える眼科的障害は眼鏡使用で対応できるものと考えられる。

3  治療が遷延した原因の一つである耳鼻科の併診につき、原告は、本件事故により耳鼻科的症状も発生した旨主張するが、乙第六号証、乙第一五号証、成立に争いのない甲第五号証、第一一号証、第一五号証、第三〇号証によれば、原告の傷病名は「両側感音難聴、右耳鳴り」であり、難聴の原因は頭部外傷、騒音難聴、音管外傷が考えられるが、本件事故との因果関係は不明であるとし、聴力像は騒音難聴が一番考えられるというものであつて、結局、本件事故との因果関係は明確ではない。

なお、原告は、難聴の程度につきその損失値が二二・〇五デシベルであつて、自賠法施行令二条別表後遺障害等級一四級三号に該当する旨主張するが、一四級三号に該当する場合とは「両耳の純音聴力損失値が三〇デシベル以上のもの」とされているし、原告は、その本人尋問においても受け答えに何らの不自由はなく、一四級三号に該当しない。

四  以上の事実からすれば、本件事故にもとづく原告の治療が遷延化したのは、原告の身体的要因、すなわち本件事故以前の労災事故による既存障害による陳旧性第一〇、第一一胸椎圧迫骨折、第二、第三腰椎横突起骨折によるものと考えられ、特に胸、腰部の愁訴、眼、耳に関する愁訴により治療が長引いているものにあつては、本件事故と因果関係あるものとは認められないから、結局、原告の損害のうち本件事故と相当因果関係のあるものは、頚椎捻挫の一般的治療期間である三か月程度という期間を前提とした治療費等の諸損害と、後遺障害として右肘挫傷による右肘関節の運動制限を考慮して全損害額を判断すれば良いものと考えられる。

ところで、成立に争いのない甲第三号証によると、原告の右肘(患側)の可動域は九〇度、左肘(健側)の可動域は一一五度であつて、患側可動域/健側可動域=七八/一〇〇で七八パーセントであるから、自賠法施行令二条別表後遺障害等級一二級六号に該当する「一上肢の三大関節中の機能に障害を残すもの」とは、患側の運動可能領域が生理的運動領域の二分の一をこえてはいるが四分の三以下に制限されたものであることが必要とされていること、原告の場合は七八パーセントであり、労働能力に対する影響もわずかなものと判断しえることなどから、後遺障害等級一二級六号に該当ないし準ずるものと言うことは出来ないが、右後遺障害は一四級一〇号に準ずるものとするのが相当である。よつて、原告の右肘関節の運動制限は一四級一〇号に準ずるものとして損害額を算定すれば次のようになる。

五  損害

1  治療費 成立に争いのない甲第一七号証、弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六〇年六月八日から昭和六一年一月八日までの七が月間において治療費一四万九二九二円を支払つていることが認められるので、その三か月程度相当分六万三九八二円が認められる。

2  交通費甲第一七号証、弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六〇年六月八日から昭和六一年一月八日までの七か月間において交通費二万五九二〇円を支払つていることが認められるので、その三か月程度相当分一万一一〇八円が認められる。

3  診断書作成費用 甲第一七号証、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故と相当因果関係のある診断書作成費用として七〇〇円を支払つていることが認められる。

4  休業損害 原告本人尋問(一回)の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、労災保険を受けていて、その受給期間は原告に就労の意思は認められないから、原告の休業損害は認められない。

5  傷害慰謝料 原告が負つた傷害の内容、程度等から傷害慰謝料三〇万円を認めるのが相当である。

6  後遺障害にもとづく逸失利益 原告の右肘関節の運動制限は前記のとおりで、労働能力喪失率は三パーセントと認めるのが相当であるから、原告の年収は原告の年齢、職種、職業歴等を考慮して賃金センサス昭和六二年第一巻第一表産業計全労働者平均三八二万一九〇〇円とし、就労可能期間を六七歳までの一一年間とし、中間利息をライプニツツ方式、係数八・三〇六で控除して、逸失利益九五万二三四一円が認められる。

7  後遺障害慰謝料 原告の後遺障害は前記のとおりであるから、後遺障害慰謝料七五万円を認めるのが相当である。

8  以上損害額合計 二〇七万八一三一円

六  過失相殺及び填補

本件事故の態様等からして、原告には過失相殺すべきほどの落度は認められないが、原告は、被告大沢から一〇万〇五七〇円、自賠責から一〇九万九四三〇円の合計一二〇万円の支払いを既に受けているのでこれを控除すると、原告の損害額合計は八七万八一三一円となる。

なお、労災保険金一一〇万四四三六円については、原告が被告らに対し請求できない休業損害に充当されたものであるから、右損害額から右保険金は控除しない。

七  弁護士費用

原告が本件訴訟を原告代理人に委任したことが認められるので、本件訴訟の審理の経過、認容額等から弁護士費用一〇万円を認める。

八  よつて、原告は、被告大沢に対し、九七万八一三一円及びこれに対する本件訴状の送達の日の翌日である昭和六二年四月二日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを、被告会社に対し、後遺障害一四級一〇号を残す傷害を受けた場合に支払われる保険金限度額と既払額との差額七五万円とこれに対する本件訴状の送達の日の翌日である昭和六二年三月三一日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

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